2012年8月12日

宝石業界いろはの「い」 ~世界と日本の違い(5)-2~

・ジェムを直接見られる機会(方法)は4つ

・ジェムは一般ルート(一般市場)よりも特殊ルート(隠れ市場)の方が出会える確率が高い

・隠れ市場とは目を養えば誰にでも開拓できる鉱山主から直輸入の卸のルートのこと


こんにちは、Web担当の方の斎藤です。
前回に引き続きまして、後編になります。前編はこちら


どうすれば宝石を見る目を養えるか (後編)


さて前編では、宝石を見る目を養うためには、
ジェムを見ることが一番の近道であることをお話ししました。

では、その一番の教科書であるジェムは、どこへ行けば見ることができるのか?
この後編ではそれをお話ししていきたいと思います。

これからご紹介するものは、あくまで日本人でも
「直接」ジェムを見られる機会を得られそうなもの、という点に絞りたいと思います。

まず一つは、オークション
ハンマーでコンコン!ってやるタイプの本格的なオークションの方です。
たとえば、頭文字がSとかCの某大手オークションには、時々宝石も出ていますね。
ああいうところに出される宝石は、鑑定書をつけないと出品できません。
逆を言うと、鑑定機関が鑑定書をつけられないような、
珍しい宝石はオークションに出すことはできないのです。


二つ目は、展覧会
宝石専門店主催で過去に何度かジェムの展覧会を開かれています。
そのような機会があればぜひ、と言いたいのですが、
今のところ、今後の開催の予定は聞いたことがありませんし、
たとえあったとしても、日本での開催はちょっと期待できないかもしれません。

ちなみに、海外の博物館等に展示されている宝石も
一応、ジェムに区分されるものがありますが、
当時の掘削レベル、研磨レベルともに現代に比べるとなにぶん差がありますので、
見てみて「わあ、大きい!」とは思っても「わあ、すごくきれい!」というような
感動はあまり得られないかもしれません。

つまり、見る目を養う「教科書」としては、あまり使えないと言えます。


三つ目は、個人所有の物を見せてもらう
国内でもご家族や知人が大事に所有されているものがあるかもしれませんし、
海外に限らず偶然出会った鉱山主に気に入られれば、
ジェムを見せてもらえる可能性はあります。
これは人間関係だけの問題ですので、どなたにも新しく道を開くチャンスがある、
という点で言えば最も平等かもしれません。

その他可能性として、あなたがお金持ちなら
大手宝石専門店のVIPになるとか、その上でお金を積めば、
もしかしたら、その金額相応のジェムは見せてもらえるかもしれませんし、
そうじゃないかもしれません。
こればっかりは私どもが一般のご家庭クラスなのでわかりません。想像です、すみません。


四つ目として、国内のジェム取扱店を探す
買いつけの関係で知り合った海外バイヤーから
日本国内でも、まだ3店舗ほどジェムを扱っている店があると聞きました。
そのうちの1店舗が当店になります。

この情報は十数年前のことで少し古く、
現在も他の2店舗がジェムを扱っているかどうかは不明です。

さらに申し訳ないことに、詳しいことは聞きそびれてしまってそれ以来ですので、
場所はおろか、店名すらご紹介できないのですが、
もしあなたのお近くに、そのようなジェム取扱店をご存じなら、
ぜひ教えていただけますと幸いです。

そして、ぜひともそちらへ伺ってみてください。
もし遠方であっても「当店でジェムを見てみたい」とお考えで、
当店にお越しになりたい方は、店舗案内はこちらになります。
ひとまず、私が現時点で、確実かつ責任もって
ジェムを取り扱っている、とご紹介できるのは当店のことだけです。
どこの業界でもそうかもしれませんが、
この業界もあまり横のつながりがないのが弱点ですね。

以上で、私がご紹介できる「ジェムを直接見られるであろう場所」はこれで全部になります。

あなたのやりやすい方法で、ジェムを直接目にしてくださいね。
ジェムを見れば見るほど、あなたの目もそれだけ養われます。


ちょっと待って!
国内にジェムはないって以前言ってたのに、
なんでジェムを扱ってるの?どういうこと?って思われた方。

それは卸のルートが違うからです。
いわゆる一般市場が正規ルートだとするならば、当店のルートは特殊ルートと言えます。

あ、特殊と言っても、いかがわしくも怪しくもありませんよ。
この特殊ルートというのは、「宝石の目利きができる方」であれば、
誰でも開くことができるルートなのです。

例えると、正規ルートが「誰でも知っている一般市場」なら、
特殊ルートというのは「知る人ぞ知る隠れ市場」という、
そもそも宝石の市場が別である、と考えてくださった方がいいです。
つまり、現在国内にはこの隠れ市場が、1つないし3つはあるということですね。

せっかくですので、宝石が入ってくるルートの仕組みをここで説明しておきましょう。
大体の流れはこうだと思います。

正規ルート
   ↓  
鉱山から掘り出し(鉱山会社)
↓    ↓
バイヤー  直輸入
↓    ↓
宝石店(一般市場)
↓
お客様(日本を除く)

宝石の正規ルートというのは鉱山から宝石を掘り出して、
それをバイヤーが買い付けて、
そのバイヤーから宝石店が宝石を買い、そこからお客様が買う。

バイヤーは店が直輸入ならいないこともあります。
まあ、よくある一般のお買いものの流れと同じです。

ところがここでミソなのは、ほとんどのジェムクオリティは
この流れの中には入っていないということなんですよ。

ジェムは①鉱山主 ②注文の順で一番良いものから抜けていきます。
そして大体②の注文の時点でジェムは売り切れになり、
③で残りの宝石をバイヤーが見繕う段になってからでは、
その中にジェムがあるかな?どうかな?という状況です。
仮にあったとしても、それは大手が買わないような、
注文外の本当に小さなジェムということです。

ジェムの流れを追うとこうです。

正規ルート
  ↓  
鉱山から掘り出し(鉱山会社) →①鉱山主
↓
    宝石店(大手)のジェムの注文 →②注文(予約)優先
↓
              残りの宝石 ←③ジェムが残っているかどうか?
↓    ↓
バイヤー  直輸入
↓    ↓
宝石店(一般市場)
↓
お客様(日本を除く)

このように、鉱山会社が掘り出した一番良いジェムクオリティは
掘り出された原石の時点で、そのまま鉱山のオーナーが持っていきます
前にも書きましたが、これは鉱山主の特権ですね。
その次に良いものは、順次、宝石店等の注文の条件に合致すればそちらに優先されます。

注文というのは、鉱山会社に対して宝石店が、
提示した条件の宝石が採れたら売って頂戴ね、と依頼するということです。
この注文はとてもお金がかかるので、
この宝石店というのは、注文できるだけの力のある「大手宝石店」のことです。
つまりそれ以外の、注文まではできない中小企業が、
いわゆる一般市場ということになりますね。

話を戻しまして、たとえば、ある大手宝石店がサファイアの3カラット以上で、
色・内容物はこれくらいのSランクという感じで注文したとします。

ではそういうサファイアがすぐ採れるか、というと当たり前ですが自然の物なので、
注文してすぐ物を受け取れるものではありません。
宝石店は、注文しても年単位で長ーく品が採れるのを待たなければならないのです。
まあ、つまり、「注文する」=「いつ品が届くかわからない予約をする」ってことですね。

そして、さらに最初の注文がまだ完了していないうちにも、
鉱山会社には次から次と別の注文が入ってきます。
そういうわけで、一般市場にジェムクオリティが回ってくるケースというのは、
それらの注文から外れたものだけ、ということになります。

ですが、まあ、大体注文した条件でなくとも、
ある程度大きさのあるジェムなら、大手宝石店に買われてしまうでしょうね。
ですので、「注文から外れた本当に小さなジェム」なら
一般市場に出回る可能性がある、と訂正しておきましょう。

つまり一般のお客様は、
ジェムを購入しようと思った時には、すでに長蛇の列の最後尾なんですよ。
そして一番良いジェムは決して手に入れられない
これがいわゆる「正規ルート」というわけです。

ちなみに日本にジェムがない理由は、
日本がこの長蛇の最後尾にも並ぶ資格がない、
と並ばせてもらえないからでもあります。


では特殊ルートはどういうものかというと、当店の場合はこうです。

特殊ルート
↓
鉱山主
↓
宝石店(当店)
↓
お客様(日本も含む)

おわかりでしょうか?購入先が違うんです。
目利きができる人は、一番きれいなジェムを持っている
鉱山のオーナーから、直接ジェムを買っているんです。

鉱山主はお金持ちなので、
お金を積んで売ってくれと頼んだところで、
そんなもの腐るほど持ってるのでいりません。
彼らは自分の持っている宝石がいかに美しいか、
その美しさの価値観を共有できる友達が欲しいのです。

だから宝石の目利きができるのであれば、
直接鉱山主に掛け合って、ジェムを見せてもらうのが、
一番手っ取り早く最も良い宝石を買えるチャンスになるというわけです。
これが「特殊ルート」というわけです。

当店の店主は、日本人ながら
最初から目利きができるという稀な変わったお人でしたので、
このように直接、鉱山主からジェムを分けていただいております。
当店にジェムがある理由はこんな感じですね。
そして日本では、この特殊ルート経由でしか
ジェムにはお目にかかれない、ということもおわかりいただけましたでしょうか?

このままでは本当に日本からジェムがなくなりかねないので、
日本人にはできる限り、一人でも多く、宝石の目利きができるようになってもらって、
市場にジェムを取り戻したいというのが私どもの本音です。

ですので、当店は「買うのはちょっと」と思っていらしゃる方でも、
目を養いたい、ジェムを一度見てみたい、または、
このブログではわかりにくいから直接話を聞いてみたい、という方も歓迎しております。

ご連絡にはお電話(店舗案内)、またはWEBはこちらのフォームからご一報ください。
そのような方にお目にかかれることを心よりお待ちしております。

今回のまとめ

一般市場にはジェムは存在しませんが、隠れ市場にはあります。
でも、隠れ市場もいずれは消えてなくなってしまう可能性があるんです。
親が目利きできるからと言って、子が目利きできるわけではありませんから。

財産にするならやっぱり、
紙よりも目で楽しめて価値もほぼ不変の宝石をお奨めしたいですね。
あなたも市場のあるうちに見る目を養って、
財産にするなら美しい宝石の方を選んでください。


一人でも多くの方が宝石が財産になることを知って、
財産になる宝石を選べる日本人が増えてくださることを願っています。


次のテーマは「加工」について。
よくある貴金属のトラブル等と絡めて、「手作りとキャストの違い」についてお話ししようと思います。

3 件のコメント :

  1. はじめまして。
    先日、このブログを見つけてから一気に読み進めてしまいました。
    大変勉強になっております。

    ところで、質問なのですが、
    ●ある程度大きさのあるジェムなら、大手宝石店に買われてしまう
    ●注文から外れた本当に小さなジェムなら一般市場に出回る可能性がある

    とのことですが、「ある程度の大きさ」「本当に小さなジェム」とは、どの位の大きさ(何カラット程度)を指すのでしょうか?

    もしお教えいただければ幸いです。
    これからも、ブログを楽しみにしております!

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    1. はじめてのコメントありがとうございます。
      ブログの勝手がわからなくて、お返事をお待たせしてしまって申し訳ありません。
      もったいないお言葉にも恐縮です。

      さてご質問の件ですが、
      「一般市場に出回るジェムのサイズは、大体1~2キャラットのものです。
      ちなみにルビーなら2キャラットまで、サファイアなら4キャラットまでのサイズなら出回っているようです。」
      それでもそのサイズでルビーは最低250万~400万、サファイアは150万~300万くらいの価格だそうです。
      どちらもビルマ産は特に採れにくいので、小さくてもお値段張ります。

      それ以上のサイズが大手向けになり、お値段もさらにぐーんと。

      また、10キャラット以上のきれいなものは、
      インドのマハラジャやヨーロッパ(イギリス王室等)のお金持ちに直送だそうですので、一般人は誰も見ることなく、存在すら知らないまま仕舞い込まれてしまうそうなんですね。
      つまり、一般に出回っているものは、言ってしまえば「目の肥えた方々にとっては程度が低い」ということを示唆しているわけでもあります。

      当店の店主もお金持ちが仕舞い込んでいるものこそ、一般に開放して見せてほしいものだと常々言っております。
      一生のうちにぜひ見てみたいですね。

      ということで、ご質問の回答になっていますでしょうか?
      今後も当店と当ブログをよろしくお願いいたします。

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    2. ご丁寧なお返事ありがとうございます。
      とても参考になりました。

      関東在住なのですぐにとは行きませんが、いつか貴店に伺いジェムを拝見したいと思います。

      これからも、ブログを楽しみにしております。
      この度は、どうもありがとうございました。

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