2012年12月21日

いろはの「い」 ~宝石の色の見極め方(前編)~

・色石は見た目と本当の色が大体違う、クオリティに関係するのは本当の色の方

・本当の色とはその石の最も薄い色のこと

・本当の色を見分けられれば、それが本当に価値の高い石かどうかわかる


こんにちは、Web担当の方の斎藤です。
今回は、「宝石の色の見方について」をご紹介しますが、長いので前・後編に分けます。
前編は必要になる前提知識を説明したものです。

色から見る資産価値のある石の探し方・見分け方(前提知識編)

この記事の内容は、どちらかと言うと一般の方よりはバイヤーの方や、
これから商売始めようかなって方にこそ知っておいてほしい内容になりますが、
一般の方も知っていて損はないと思います。

端的に申しますと、宝石、こと色石は
見た目の色」と「本当の色」が違うことが往々にしてございます。

そこで石を買う時は、その石が「本当は何色なのか」分からなければいけません。

なぜなら石は、この「本当の色」によって値段が違うからです。

本当の色」とは、その石が含んでいる中で「最も薄い色」のことです。
この石は見た目が赤いのに本当は青色とか、
そいういう突飛な話ではないのでご安心ください。

私どもは、この最も薄い色のことを「元々の色」という意味で「元色(もといろ)
と呼んでおりますが、前回、クオリティのお話をした中で、
クオリティを決定する際、色石の場合は色も見ると言いましたが、
その見るべき「色」とはこの「元色」のことなんです。

こちらの画像は、
ビルマ産サファイアの青色を再現した色見本になりますが、
たとえば元色が、この色見本の一番下の薄い色の石と、
上から1番目~3番目くらいの色の石と値段を比べたとします。

一般的に、色石は濃い色の方がお値段が高いので、
上から1番目~3番目の色の石の方が
高値がつくことは、お分かりになると思います。

つまり、宝石の値段はまず「クオリティ」と、
この「元色」によって決定されているわけです。

ですから、透明度が高く、元色が濃い石を見分けることができれば、
 それは間違いなく価値の高い良い宝石であることは、もう皆様お分かりですね。

このような判断ができることが「宝石を見る目」を持っているということです。

宝石は、このようにクオリティと元色によって基準の値段が決定した後、
傷やら内容物やらマイナス要因があれば値引きし、
そうして総合的に石の美しさを考えてはじめて
「石の評価」=「本来市場で表示されるべき値段」が決まるわけです。

ここで「本来市場で表示されるべき値段」などと回りくどい表現をしたのは、
この後、店の都合でバイヤーやら中間業者を挟む場合、
これにその分のマージン(手数料や人件費等)が別途上乗せされるからです。

ともかく一般のお客様は、
「宝石は本来値引きされるものではない」ということを知って頂いて、
値引きがあるのは、まあ、何かと中間業者が多い日本特有の事象とでも思ってください。

ここで勘違いしちゃだめなのは、
「セール(sale)=宝石の価値が下がった」のではないということ。

では、いったい何の値段をセール(=値引き)しているのかというと、
「宝石+人件費」の人件費諸々の方なんですね。
お店の仕入れの都合で別途上乗せされた分です。
人件費諸々については、ブランド店ならブランド料などもですかね。

なので、ジュエリー等のチラシで宝石「値下げ(セール)」してますよーとあったら、
「あ、安い!」ではなくて、
「あ、今なら正規料金(本来の表示されるべき値段)に近いのね」、
と思っていただく方がおおむね正解です。
宝石の価値は世界基準で厳しく評価されているのに、
日本の、たかだか1店舗の都合で、簡単に価値は変動したりしませんよってことです。

ということは、ブランド店等でセールしてない通常時に買う時は、
宝石だけでその値段なのではなく、
「宝石+ブランド料+α」を買っているってことになるわけですが。

「ダイヤはダイヤでしょ、ブランドとか興味ないわ」というような、
純粋に宝石だけ買いたい人には、
この「ブランド料」はいらない付加価値料金ですね。

そういう方は、中間業者の少ない卸や直輸入しているお店を探すと、
同じクオリティ・キャラットのダイヤでも大分値段が変わると思いますよ。


話がそれましたが、
ともかく宝石のバイヤーを目指す皆さんは、

クオリティを知っていること
元色が見られること

最低でもこの二つをクリアしなければ、
価値の高いジェムクオリティの宝石(色石)にはたどり着けないということになります。
今の日本が業界最底辺を脱するためにもそれでは困ります。

というわけで、一人でも多く精鋭となって頂くために、
やっと本題に入りました、元色の見方をご紹介したいと思います。


こちら使いまわしになりますが、先ほどのビルマブルーの色見本です。
元色が分かるようになった後は、
見方に慣れるまでこのような色見本を作って
自分で石と比較してみるのも良いと思います。

さて、このビルマブルーなんですが、
ビルマ産サファイアはなぜ高いのか。

物理的には産出量が少なく稀少であるからですが、
色の観点から申しますと、
ビルマブルーは純粋な青色、つまり「単色」だからです。


色見本をご覧ください。おや、おかしいですね。
一色じゃありませんね?

ここでミソなのは、
一色」であるということと、「単色」であるということは意味が違うってことなんです。

「一色」と言うのは、無限にある色から一つ選べばどれでも一色です。
薄い青も濃い青も、白を混ぜた青も、
赤っぽい青(赤を混ぜた青)や、緑っぽい青(緑を混ぜた青)も、
全部数え方としては「一色」なわけです。

でも「単色」は違います。
水で伸ばした薄い青や、同じ青を足した濃い青は、水と分離したら青しか残りません。
でも、白を混ぜた青や、緑を混ぜた青というのは
分離したら水+白と青、水+緑と青が残ります。

分かりやすく言うと、たとえば、
小学校くらいの時に理科の実験で「水性サインペンの色の分離」ってやりましたよね。
黒のサインペンの色を分離すると、実は黒だけじゃなくて、
中に赤とか水色とか黄色とか、色んな色が含まれているのを確かめるっていうあれです。

つまり、このいろんな色の混じってできた黒は確かに「黒」という一色なんですが、
「単色」の黒ではないってことです。
だって、単色なら分離したとき黒って色しか出てきませんからね。

同様に、ビルマブルーは分離すると青って色しか出てこないんですよ。
この理科実験の「分離する」という行為が、
宝石業界では「元色を見る」という行為にあたるわけです。

「元色が見られると何の得になんねん?」というと、たとえばですね、
高級な石の色というのは、各種宝石において大抵決まっていて、
サファイアであればビルマブルー、ルビーであればビジョンブラッドというように、
この石であればこの色が最高だ、という色があります。

そしてその最高の色に近い石がある場合、
元色が見た目と同じ色(=単色)であれば、そのまま高価な石になりますし、
元色が違うけど、別の色が一部に混ざっていてそのせいで
見た目には全体が高級な色に見えるという石であれば、
当然、お値段が変わってきますよね?

その石が元色相応の値段であれば問題ありませんが、
元色が違うのに、見た目が高級なばっかりに高級な石と同じ値段で売れば、
言い方は悪いですが、それは偽物を売ったのと同じになってしまいます。

もしあなたがそれを買ってしまったのなら、
よくあるブランドのパチ物を本物と偽って買わされたのと同じと思ってください。

元色を見られる・判別できる」というのは、
つまり、このような偽物を見分けることができるという意味でもあるのです。

お分かり頂けましたでしょうか?

では本当に「元色同じ色」かどうかを確かめるために、先ほどの色見本を分解してみましょう。
こちらをご覧ください。


左は元画像、右は見るべき場所に簡単にガイドをつけてみました。

紫のガイドラインが、各色水の表面張力のきわになります。
この色見本はもう作って何年も経つので、
中身が蒸発してラインがバラバラですが、本来なら一直線になりますよ。

確かめてほしいことは次のことです。
いいですか、ビルマブルーは単色ですので、色素は一つです。
そして、「元色」はそこに含まれる最も薄い色です。
つまり、元色である最も薄い色は、全部同じ色(=一つだけ)ってことになります。
隣の元色と色が違うってことは絶対にないです。

では、右画像の矢印の先をご覧ください
そこは表面張力で「水が最も薄くなった」部分です。

同じ色なのがお分かりになるでしょうか?
まあ、写真だとちょっと分かりにくいかもしれませんね…。
ですが、このように、大体の高級な色石というのは、どこをとっても「単色」なんです。

他の色が混じっていない純粋な「単色」は
自然界で生成するには、実はすごく難しいんです。
そりゃあ、どこに色素を構成する鉱物が転がってるか分かりませんものね。

このように、「産出量」という物理的な稀少さと、
「色のできにくさ(=色が混ざらない偶然)」という稀少さがあいまって
ビルマのブルーサファイアは稀少なんですよ。
だから、ものすごく高価なんですね。

私どもの言いたいことは伝わっているでしょうか?
ルースを買う時は、見た目の色に騙されず、真に見るべきは「元色」だということです

千里の道も一歩から!ということで、
価値の高い石を手に入れたければ、元色の判別をする練習をなさった方が、
ひたすら宝石店を巡るだけよりは、より確実だと思います。

とりあえず、前提となる理屈は説明しましたので、後編は主に実践編です。
今回の前提知識をもとに、実際のルースではどこを見るかご紹介しますね。

もし、あなたが宝石を扱う方なのであれば、
実践に移る前に、必ず今回の話の内容は押さえておいてほしいところです。


おまけ。
写真じゃなくて実物で確かめたい方のために色見本の作り方はこちら。

準備物
・しっかり蓋を閉められる透明なケース
・全部のケースに同量の水が入るだけのと、それを入れる適当な器
パイロットのブルーインク
スポイト(あれば)、プラスチック用接着剤
注意事項
色のついていない透明なケース
 連なっていると便利ですが、
 なければ個々に並べて置いても色見本としてはアリじゃないでしょうか。
 これは100均で見つけたものですが、同じものは今もあるんでしょうか?
 なければ、できるだけプラ特有の「黄色っぽい透明」ではないケースを探してください。

「パイロットの」ブルーインク
 最初が15滴、2つ目が30滴、3つ目が45滴というように、15滴ずつ増やしてください。
 回し者でも何でもありませんが、
 この時使用されるインクは必ずパイロット(メーカー)でお願いしますね。
 なぜなら他のメーカーのインクでは、
 このようにきれいなグラデーションの色見本は作れないんですよ。
 色見本を作ろうとあらゆるインクを試していてはじめて気がついたことです。


作り方
順番に色を作っていきます。

まず適当な器に水を入れ、そこに15滴インクを入れます。
これが下から1番目の色になりますので、スポイト等でケースに入れます。
水平ラインが揃っていた方がおすすめですので、
ここできっちり入れる量を決めておくといいでしょう。

1番目のインク水にさらに15滴インクを追加します。
これで2番目の色になります。
スポイトでケースに入れます。

以降、15滴ずつインクを増やしては、ケースに入れていきます。

終わったらケースの蓋に接着剤でもつけて、
水が漏れないよう蓋をすれば色見本の完成です。

色見本は宝石と同様に、必ず明るい部屋で「」を通して見る事
注意事項はこれだけですね。


今回のまとめ

宝石は、見た目の色ではなくて、
その石の「元色」が宝石のクオリティの決定に関係します。
つまり、大事なのは見た目の色ではなくて、元色の方なんです。

見た目が高級な色をしていても、
を見分けることで、それが真に高級な価値のある石かどうか
判別できるということです。


次回は「宝石の素の色の見方(後編)」について、お話しします。

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