2013年2月10日

いろはの「い」 ~宝石の色の見極め方(後編)~

・元色を見るにはライト(光)を使う

・元色の見方が分かってはじめて色の違いも分かる

・本記事はプロであれば分かって当然の基礎的内容なので、テストがてらどうぞ


さて、前編では、ルースを買う時に大事なのは見た目の色ではなく、
本当の色(元色)だということをお伝えしました。

では、その元色は実際にはどのようにして見分けるのか。
後編では、実際にルースではどうやって元色を見るのか等を説明していきます。
本記事を読む前に、いったん復習として前編をはじめに読むことを強くおすすめしておきます。

色から見る資産価値のある石の探し方・見分け方(実践編)

準備物
ライト:色は昼白色など自然光に近いもの、一番いいのはハロゲンなど光の強いものです。
ルース:指輪等のすでに枠があるものでは、陰ができるので元色は確認できません。
※部屋も明るいとなおいいです。(サンルームや晴れの日の窓辺など)

方法
・ライトをつけ、上にひっくり返したルースを乗せるだけ!
・ルースを真上から覗き込むように見ます。(眩しいので注意してください)

見るポイント
ステップ1:元色を確認
一番薄い色が元色です。
次のステップに進む前に、まずはその色を覚えておいてくださいね。

ステップ2:単色かどうかの確認
元色は覚えましたか?ではそのままライトを消してください。
ルースはそのままで、今度はその石の中で一番濃い色を見つけましょう。
発見できたらその「一番濃い色」と、さっき覚えた「元色」を比較してみてください。

元色を濃くしたらその色になる、これを同じ「色の立ち」と言いますが、
そのルースは同じ色の「立ち」でしたか?

色が混ざっていたら感覚で分かりますので安心してください。
同じ「立ち」であれば、つまり単色なので価値が高い石ということです。

きっと「色の立ち」については、まだよく分からないと思いますので、解説タイムです。

まずは実際に、ちょっとルースを見ていただきましょう。
以下2枚の画像の全部で10個のルースは、すべて同じ産地(ビルマ)のブルーサファイアです。




上のグループ(上画像)と、下のグループ(下画像)とで何が違うかというと、
実は「元色」が違うんです。

上は、単色ではないグループ、かつ5つとも全部元色が違います。
下は、単色のグループ、かつすべて元色が同じです。
下のグループに関しては、
産地が同じなので元色が同じなのは当たり前といえば当たり前ですね。

つまり、上のグループは元色を表すのに絵の具が5本いりますが、
下のグループは絵の具は1本でいいのです。
これの意味するところは、上のグループはどれも色の「立ち」が違い
下のグループはどれも色の「立ち」が同じだということです。

平たく言うと、Aのルースの色はどれだけ頑張って濃くしてもFの色にはなりません、ってことです。
最初に説明したとおり、ルースの「一番濃い色」は「元色が濃くなったものだからです。
そもそもAとFでは元色が違うので、Aの元色はFの濃い色にはなりません。
同様にA~Eのどの元色も下のグループの濃い色にはならないんです。

宝石は色が濃い方が価値が高いのでしたね。
どんな石でも色が濃ければ価値が高いのかというと、そうではないことが、
この色の「立ち」の話でお分かりいただけたのではないでしょうか?

さて、元色が違う上のグループは、
見た目にも分かりやすく色が混じっているダメなルースを選んでいますので、
同グループのA~Eで比較しても、下のF~Jと比較してもなんか色が違うなーっていうのは
わかって頂けるのではないでしょうか。

でもですね、たとえばEは、まだ一番色の混じりが少ないきれいなルースなんですが、
これが下のグループに混じっていても、
ルースを見慣れていない方だと、あんまり違和感ないんじゃないでしょうか?
もしかしたら、下のグループだけでも全部同じ色と言われても
「違うんじゃない?」って思っていらっしゃるかもしれませんね。

その通りです!あ、いえ、同じ色なんですが、
つまり、パッと見では元色は分かりません、ってことなんです。
だから、宝石はライト(光)を使って色を検分する必要があるんですね。

大事なことなので繰り返し申しますと、元色は見た目の色とは違います、ということです。

色の立ちに関しては、また別に詳しく説明した方がいいでしょうか?
とりあえず、いま、色の立ちの話でわかって頂きたいのは、
透明度があっても、色が混ざるとどうしても汚い印象になる、ということです。

Cを見ると透明度は高いですが、
やっぱり印象としては、なんとなくスッキリした青ではありませんよね。
色が混ざると、どうあがいても汚い印象はぬぐえないんです。

だから、ルースを選ぶときは、できるだけ単色の、
色の混じりのないものを選ぶ必要があるんです。

たとえば、ここに「多少の傷はあるけど単色」のルースと、
「ほぼ無傷だけど単色ではないルース」があるとして、
どちらを選ぶのが賢いか?

私なら、間違いなく「傷はあるけど単色のルース」を選びます。
理由は、先ほど述べたとおり、
色だけはクオリティと同様に、その石が持って生まれたもので
人間側ではどうにもならないからです。

でも、多少の傷は、実は装飾品として加工したときに、
見た目には「ない」ものとして扱うことが可能なんです。
だから、ルースを選ぶときは色と透明度にだけ注意します。

まあ、これは私の場合、当店の店主のような、
傷を隠すとかではなく、光を使って表面上はないように見せることが可能な
「そういう技術を持った職人」に加工を頼む場合、
という前提条件があっての選択ではあります。

傷の程度や技術については、またいずれ別の機会にでもご紹介できればと思います。

というわけで元色の見方とルースを選ぶポイント、
お分かりいただけましたでしょうか?

ご紹介したライトの方法が最も簡単で、
最も元色が見やすい方法です。

眩しいかもしれませんが、慣れるまでは
ばんばんライトを使って、たくさんルースを見て、
元色の見方を覚えてください。
そうすると処理石かどうかも分かるようになりますよ。

慣れたらこのように(左図参照)、ライトを使わなくても
普通に光を通して、元色を確認することも可能です。

その際は、ルースのガードル付近、
「最も石が薄いところ」を見ると元色が分かります

世の中には「ライトを使って宝石を見る方法は間違っている」という
情報も転がっているようですが、宝石は光の種類によって見え方が違うものです。

たとえば、蛍光灯(室内)の下で見る場合と、太陽光(屋外)の下で見る場合、
当然、自然光の下で見る方が、明るくきれいに見えるものです。
しかし、同じ自然光でも、晴れの日と曇りの日では全く異なります。

光について、詳しいことはここでは省きますが、
まあ単純に考えても、いちいち晴れの日だけを選んで買いつけなどできませんし、
要は一番薄い色さえ見れればよいのですから、
どんな種類の光でも「強ければ」いいのです。

つまり、ここでのライトの役目はどちらかと言うと、
「色を見る」のではなく、宝石自身が作る、
あらゆる「陰(色が濃いのも陰ということ)を飛ばす」ということですね。

陰を飛ばした結果残るのが元色ということです。

まあ難しいことは考えずに、要はライトはいつでもどこででも、
宝石を見るための環境条件を一定に揃えるため、とでも考えておいてください。


それから、光で思い出しましたが、
慣れないうちは買いつけの時に「当て石」を持っていくことをおすすめします。

当て石とは色の比較用の「偽物の石(イミテーション)」のことです。

多分、バイヤーの中にはそういうものを持っていく方もいらっしゃるんでしょうが、
使い方が間違っています。見た目の色を比較したってだめなんですよ。
何度も言いますように、「元色」を「比較」するんです。

たとえば、ルビーの最高級と言えばビジョンレッドですが、
色を口で説明したって分かりませんよね。
本物が手に入ればそれが一番良いですが、宝石屋を始めたばかりの素人が、
いきなり本物のビジョンレッドを買いつけることは難しいでしょう。

そこで、ビジョンレッドの模倣品を買うのです。

偽物というのは一番価値のある石、つまり最高級品を模倣したものですから、
その最高級の色を見たことがない人には実に適当な教科書だと言えますし、
これなら万が一、なくしたって数千円の損ですみます。

模倣品もできのいいのと悪いのがありますから、そこは選んでくださいね。
ジルコニアで作られたマスターストーンというものがありますので、
それを見本にするために探すといいでしょう。
言うまでもありませんが、勉強用であって、悪用は絶対にだめですよ!

本記事で元色の見方の基本は覚えましたよね?
では、その模倣品の元色と、現地で買おうと思っているルースの元色を比較して
当て石の元色に一番近いものを買うんです。

紫外線が強い場所だと、得てして価値の低い悪い石の方が発色が良かったりします。
なので、確実に元色を見るだけの自信がないうちは、
こうした当て石のような比較基準を持ち歩くのがいいですね。

というか本当は、一番初めは勉強のために本物を借金してでも買うべきなんです。

冗談抜きで時に命の取り合いになる宝石を扱うのに
それくらいの覚悟がなくてどうします、というのもありますが、
これから本物を知らなければ偽物も分かりませんでしょう?

本物、つまりこの場合は価値が高いかどうかではなく、「その産地かどうか」です。
スリランカ産、ビルマ産、タイ産、どれも口で説明したって色なんかわかりません。
見たことがないものを覚えるためには、最初にその産地の色を「見て」覚える必要があります

そのためには、そのルースは間違いなくこの国から採れましたよという
その国が保証しているマーク(国旗)の入った鑑定書がついているルースを買うんです。
鑑定書が頼りになるのは正直こういう時くらいですね。

その保証されたルースはやはり他より高いものですが、
その産地の色を覚えるためには必要な教科書です。
店主も最初はそのようにして色を勉強していました。

そうそう、ちゃんと買いつけの時、海外に足を運んでいますか?
本場一流の宝石屋は、わざわざ宝石業界の底辺たる日本に
大事な宝石なんか売りに来てくれませんよ。

大企業の社長が、わざわざペーペーの出来の悪い新人に会いに来てくれますか?
普通は逆に呼びつけられるものです、ってことを考えれば分かりますよね?
宝石を見る目のないうちは、せめて頑張って騙されないようにしてください。


いかがでしたでしょうか?
今回はプロ(初心者)向けに結構盛りだくさんな内容になっております。
本記事の内容があますことなく分かるのであれば、私どもが口を出すまでもなく、
あなたは海外でも通用する素晴らしい宝石屋、プロ中のプロです!

ちんぷんかんぷんだった方は、
とりあえず一度、このブログをはじめから読んでみてください。
記事を順番に追って理解を深めていくと、今回の内容もきっとわかって頂けると思います。

店主曰く、海外では「宝石屋」であるならば、
こんな内容はまだまだ序の口、基礎の基礎でしかありません。
そもそも、色が見られなければ「宝石屋」にはなれないのだそうです。

まあそうでなければ、何を基準に値段がつけられているのか、
さっぱり説明できませんものね。

ちなみに鑑定書はレポート、つまり、その石の「分析結果」です。
鑑定書とは、あくまで宝石の「データ」であって、宝石の「評価」ではありません。

海外では、その「石のデータ(鑑定書)」をもとに
「宝石屋」が石を評価し、値段をつけるのです。
海外のレポートには必ず、
宝石のわかる人に鑑定書を見てもらってください」と書いてあるくらいです。

それに、良いものは誰だって見ればわかるので、
無傷だとか特殊な事情により、証明がいりそうな宝石以外は
鑑定書はつかないというのも、海外(=本来の宝石市場)での常識です。

日本では鑑定書がすべてで、
鑑定書が石の値段そのものになってしまっているので、
海外とはまるで逆ですね。

というわけで、これから宝石を扱おうという方は、
せめて、きちんと色が見られるようになってください。

正直、鑑定書の見方を覚えるよりも、
色の見方を含む、石そのものを見る方法を覚える方が
世界で通用する宝石屋になれるでしょう。

あなたが本当に宝石が好きで宝石屋になりたい人であれば、その方が絶対いい。

日本はジェムの勉強をする環境にないので、
勉強したい方は当店にお越しくださるか、いっそ海外へ出てみましょう。
現地で勉強するのが一番です。

日本人であっても「あいつはちゃんと色が分かるやつだ」と実力を認められれば、
海外で秘蔵の石を見せてもらえる機会がくるかもしれません。
買いつけだけは、とにかくひきこもってないで海外に出ましょう。
日本にいても海外の宝石の常識は分かりませんからね。

そうやって、日本人でそのように石を見れる方が一人でも多くなれば、
それだけ日本の宝石市場にもジェムが戻ってきやすくなりますし、
正しい価値で宝石が取引される、
まっとうな宝石業界が戻ってくる日も近くなると思います。

日本の宝石屋がどれくらい宝石を知らないか。
海外からは、海外の宝石屋が大学以上の先生だとすれば、
日本の宝石屋なんて幼稚園生だと揶揄されるくらいです。

とにかく日本の宝石屋は、いっそ清々しいまでに「宝石」を知らないのです。

宝石は本当は本当に美しいもの、価値のあるものだということを
日本の皆様に知って頂くためにも、
「うさんくさいわぁ」と思う前にここにあることをまず実践、
分からなければ、もちろんお気軽にご質問してくださってよいのです。
説明できることもプロの仕事です。
そのために疑問を潰していくのもまたプロの仕事、義務です。
相手がお客様であろうと、同じ宝石屋だろうと、それは変わりません。

とりあえずどこが分からないのか分からないのであれば、
誰かにこの内容を見せて「どういうこと?意味が分からん」って言われたことを
口頭で説明してみてください。
はっきり納得できる説明ができないのであれば、
それがあなたの質問すべき疑問の種ということですよ。


小さいハテナも大きいハテナも解決すべき問題であることに変わりはありません。
だから聞くことを恥だと思わず、根掘り葉掘り聞き倒して宝石に詳しくなってください
この辺の姿勢は日本だと宝石屋よりもいっそ一般の方の方が意欲的ですね。

知らずにいることは恥ではありませんが、
知らないことを知ったかぶって正解を聞かずに放置した結果が
今の日本の宝石業界の現状なのです。

目を奪われるようなきれいな宝石ってあなたの身の周りにありますか?
それが疑問を放置した結果、答えです。

私どもは、長年間違った国内の業界事情に鬱々としておりましたが、
今、やっと!情報を提供できる環境に恵まれましたので、
こうして皆様に正しい情報を発信することができます。

ですから、あとは皆様がここで得た情報を使ってください。
実践を重ねてモノにしてください。
宝石屋としてきちんと宝石を知ろうとする、行動のできる宝石屋を私どもは歓迎します!

今回のまとめ(?)

本記事の内容がきっちり説明できる方は、
海外でも通用するだけの基礎ができた宝石のプロです。

もし知らないことの方が多ければ、とりあえず買いつけには海外へ行き、
実際に現地で、現地の人と仲良くなっていろいろ聞くのが一番いいと思います。
この記事にあることはそうやって教えてもらったことばかりですから。

基本は行動、そして疑問はすかさず聞く、です。
聞ける人がいるのであれば、がんがん質問しましょう。


だいぶ横道にそれましたが、次回は「いろはの「い」技術編」の続きに戻りたいと思います。

3 件のコメント :

  1. こんにちは
    初めまして。
    とても楽しく読ませていただいています。
    最近宝石業界に入り、あまりに本当の情報がないので探しているうちにこちらにたどり着きました。
    色石の元色について教えてほしいのですが、
    元色とは ブルーサファイアの混じった色でも、元色は単色の青が出るのでしょうか?
    機会があれば是非御社にお邪魔させていただきたいです。
    では、ブログ楽しみにしています。頑張ってください♪

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  2. コメントありがとうございます。
    元色の件ですね。
    結論から申し上げますと「色の混じった石では単色は出ません」
    というか「その石が単色ではないので単色は出ません」と言った方が正しいです。
    根本的に単色のことを誤解なさっているようですね。
    ブログは宝石の基礎を順々に追って説明していくように書いておりますので、
    できれば、いろはの「い」シリーズを一番初めから読んでみてください。

    コメント欄なのでざっくりした解説になりますが、
    宝石は分かりやすく例えるなら、
    ガラスのコップとその中に入れる水(色水)のセットだと考えてみて下さい。
    中に入っている色水が、その宝石の色です。
    混じっているということは、すでにその色水は、
    絵の具を混ぜたように2色以上ということ(青+緑で青緑とか)ですので、
    単色(=1色)ではないことが、お分かりになるでしょうか?
    さらに言うと、その色水は混じってしまったらもう捨てられません。
    だから、kaoriさんのおっしゃるその色の混じったサファイアが、
    単色にはならないということもお分かりになるでしょうか?
    元色は口で説明するのが難しいところですので、やっぱり見るのが一番なのですが。

    最後に、業界に入ったばかりとのことで、応援の意味もかねて
    本当に宝石の事を知りたいと思っておられるのでしたら、
    ブログでも紹介している参考書の「おすすめその1」の方を
    図書館でもいいので、一度探してお読みになることを強くおすすめしておきますね。
    どうせ詰め込むのであれば、せめて正しい知識を!です。
    私ももっとブログを楽しんでいただけるよう頑張ってまいります。

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  3. 丁寧なおへんじ有難うございます!
    元色と単色をごっちゃにしていました。

    海外のバイヤーさんとの接触がある職場に移ったため、色々勉強しています。
    こちらのサイトはとてもためになります。
    参考図書も今読んでいます。
    どこまで習得して、日本の宝石商として海外の宝石商の方と楽しんでやっていけるかと毎日わくわくしてサイトをのぞかせていただいています。
    どうぞよろしくお願いします。

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