2014年4月2日

店主:宝飾職人の危機感

こんにちは、店主の斎藤です。入退院を繰り返していましたので一年ぶりです。

今回は、「一般の加工技術」と「私の手づくり技術の必要性」についてお話させて下さい。


一般の加工技術 】


 ●ロー付けの必要性
・サイズを小さくする⇒糸ノコで小さくする分の地金を切り落と1ケ所ロー 付けする。
・サイズを大きくする⇒必要サイズ分の地金を挟んで2ケ所ロー付けする。
・ペンダントやブローチ等の修理においてもロー付けは必要となる作業で  す。

 素材別ローの溶ける温度
・銀 ロ ー      500度~600
・金 ロ ー      800度以上
・プラチナロー    1200度以上
  
 ロー付けの際の注意点
ガスバーナーの温度1800度の熱をローに当てて溶かし、地金を付ける訳ですが、ローの素材によって溶ける温度が異なるため、ほんのわずかな瞬間でローを溶かし分けるという高度な技術がなければ地金(製品)を溶かしてしまうという失敗に至ります。
宝石のついた製品を扱うときは、その宝石に熱が伝わらないよう細心の注意を払わなければ宝石をダメにしてしまいます。

 ●ロー付けによる失敗例
ダイヤに熱が加わると変色する・白くなる・薄暗くなる・照りがなくなるといった事が起こりますし、サファイア・ルビー・オパール等でも色が変化したり、石にクラックが入ったりします。最悪のケースとして宝石が割れてしまうこともあります。
パールは貝に核を入れて1年以上巻かせて取れる物ですが、変色したり照りがなくなるだけでなく、核が割れてしまっている事がよくあります。

 ●一般に行われている防護策
宝石の部分を水で浸した布で覆ってロー付けしたり、水の中に浸けてロー付けをする方法が用いられていますが、パールや珊瑚は穴をあけてリング等に付けられているピンに刺して石留めされているため、外側(表面)をいくら保護してもリングに加わった熱がピンに伝わり、パールや珊瑚の内側から熱が加わることになりますので必ず枠から一旦取り外してサイズ直しや修理をしなければ照りがなくなったり、ぼけてしまうという事態を招くのです。



私の手づくり技術
 ●ロー付け
私は、3秒でローを溶かして地金を付けるという技術を持っていますのでどんな素材でも失敗せずにロー付けすることができます。
また、手に感じる温度が45度を超えると我慢の限界と思われますので、製品を素手で持ってロー付けをすることで高温の熱が宝石に伝わるのを防いでいます。

 ●手づくり加工
昭和初期の初代の技術、昭和39年頃の二代目の技術、平成15年頃の三代目の技術を駆使してヤスリ・金づち・金床だけを使って制作します。

 
 ≪銀・金・プラチナの線を作る≫
・線引きという道具を使って0.3㎜~3㎜までの線を作る。
・四角形の角棒の地金を 八角形 十六角形 三十二角形 六十四角形   という具合に金づちでたたきながら道具は使わずにほぼ丸線に仕上げる。

 ≪パイプを作る≫
・溝盤という道具に地金を入れてたたき、仕上げに線引きに通してパイプを 作る。
10㎜の幅で0.8㎜の厚みを持たせて地金をたたき道具は使わずパイプを作 る。
  *線やパイプのパーツを買って作るのが一般的な加工です。

 ≪ヤスリの技術≫
・地金をヤスリで削って0.05㎜の誤差で厚みを仕上げる技術でリング等を作 る。

   ≪金づちの技術≫
・地金を金づちでたたいてコピー用紙よりも薄い0.03㎜~0.06㎜の厚みに伸 ばす技術で板状に仕上げる。
  ≪進化させた新たな技術の確立≫
・折り紙のように鶴を折る。
・ペーパーフラワーのように花を作る。
・平面の物を立体的に作る。

  最近こうした知識や技術を持たない者が職人として平然と手を加えた結果、お客様の大切な宝石を目も当てられない状態にしてしまっている事に気づいていないのか、分かっていても黙って渡しているのか、また、お客様もまたその事に気づかずにおられるのをしばしばお見受け致します。

昔は、35年以上加工技術を鍛錬し親方から認められなければお客様からお預かりした宝石に触ることさえ許されませんでした。

それというのも、万が一傷つけてしまったら謝って済まされるものではなく、何百万円もするような高価な宝石であろうとそうでなかろうと元に戻すよう要求されることが当たり前の時代だったからです。

当店へ来られたお客様が、「ずいぶん前に京都の有名なT宝石店で買ったのだけれど、高価な宝石だったから修理してほしくていろんな宝石店へ問い合わせたけれど、何処も修理なんて出来ないと断られ、新しい物を買うように勧められた」と嘆いておられました。

悲しいことに、職人といえども修理することができない時代になってしまっているのです。

拝見しましたら価値のある宝石でしたので、これからも大事にお持ち下さるようにと願い私が修理させて頂きましたところ「宝石なんてもう買わないと思っていたけれどこんな風に良く仕上げてもらえるなら価値がある」と大変喜んでいただきました。

どんなに古い宝石でも価値のあるものなら次世代に受け継いでもらうためには古いものを修理できる技術や新しく進化させた技術が要求されると思います。

私は、価値ある宝石を守るための職人の技を後世に伝える必要があると思い、若い職人を育てています。私の思いに賛同してくれた若者達が、昔の物を修理できる技や新しいものを作り出す技を日々鍛錬し手づくりできる職人をめざして頑張ってくれています。

若い芽を摘むことなく花咲かせるためには大勢のお客様からの手づくりのご要望が不可欠です。

日本の伝統である繊細な職人技を後世に残すためにも一人でも多くの方が手づくりに関心をお持ち頂けるよう心から願って已みません。







10 件のコメント :

  1. お体大丈夫ですか?
    何時も参考に読ませていただいています。
    今度一度お店にお邪魔したいな。と思っています。
    宜しくお願いします。

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    1. お気遣いありがとうございます。
      おかげさまで店主の体調もずいぶんと回復してきております。
      来店ご希望とのことで、木曜は定休ですのでその点だけご注意くださいませ。
      お会いできることを心よりお待ちしております。

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  2. 一年前にこのサイトにであったときは色石を始めて勉強し始めたときでした。blueインクのグラデーションも作って見ました。なかなか深い情報がない中、勉強させていただけるサイトの一つでした。最近、さらに色々ジュエリーを調べる中でジュエリーの意匠について考えることがあり、久しぶりにこのサイトを閲覧したところ今回の記事があり感動しました。私はもう若くないので作製を学ぶことは考えておりませんが、斎藤宝飾さんの考え方にとても感銘を受けまして、いつかお会いできるだけでもしてみたいなあ。と考えておりました。
    こんな状態ですが、もしお邪魔でなければIJKに行く前に立ち寄れることが出来たら、御社に立ち寄ってもよろしいでしょうか?よろしくお願いします。

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  3. コメントありがとうございます。当ブログの情報がお役に立てているのなら大変うれしいことです。信じて実践もしていただいてありがとうございます。

    IJKというのは5月14日~16日開催の神戸国際宝飾展のことでしょうか?
    そうであれば15日の木曜日は当方の定休日ですので、木曜日を避けていらしてください。
    お時間はいつでも大丈夫ですので、お会いできることを楽しみにしています。
    お気をつけてお出かけくださいね。

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    1. はい。14日からのです。まだ会社に了解を得てないので、了解を得て伺えることになりましたらまたご連絡させてください。宜しくお願いします。

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  4. こんにちは。
    何時もお返事有難うございます。
    13日にお店に伺わせていただきたく連絡しました。
    都合がよいお時間などありますでしょうか?
    とっても楽しみにしています。
    宜しくお願いします。

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  5. コメントありがとうございます。
    13日であれば午後から来ていただけますと幸いです。
    こちらもkaoriさんにお会いできることを楽しみにしております。
    ブログでは話し切れていないことの方がまだまだたくさんありますので、
    この機会に知りたいことや実物でしかわからないことをたくさん見ていってくださいませ。
    それでは当日を楽しみにお待ちしております。

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  6. 丁寧なお返事有難うございます。それでは昼食後に伺わせていただきます。
    お会いできることを楽しみにしております。よろしくお願いします。

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  7. 先日はお忙しいところ、為になる話を有難うございました。あれから展示会に色々見てきました。もっと地金づくりについてもお聞きしたかったです。また機会があれば宜しくお願いします。有難うございました!

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  8. 丁寧にありがとうございます。
    こちらこそわざわざ足をお運びいただきましてありがとうございました。
    今後ともブログともによろしくお願いいたします。

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